真庭のとんかつ喜楽

あの日、あの店で食べた豚カツの脂は、まるで砂漠の蜃気楼か甘酸っぱい恋の思い出のよう。

僕らは歩く。

真庭のとんかつ喜楽

 

この真庭に、舌がとろけるほどのとんかつを出す店があるという話を聞いてしまったからだ。

しかもその店は、ギークハウス真庭から歩いていける距離にあるという。

 

だから、また僕らは歩く。

真庭のとんかつ喜楽

 

真庭の豚カツ屋『喜楽』

川沿いを10分ほど歩くと、お店が見えてきた。

真庭のとんかつ喜楽

 

僕らがずっと追い求めていたものがここにあった。

 

『鹿児島県産 三元豚ロース定食  ¥1,300』

真庭のとんかつ喜楽

 

看板には ”本日のおすすめ” とある。

 

さて、どうしたものか?

 

 

こう言い切られてしまったら、それを食べる他ないだろう。

僕らは所詮、旅ガラスのジプシーであり、その土地の人間に勧められるがままに生きてきたからだ。

 

寒い河川沿いを歩いてきた一行にはすでに談笑をするほどの余裕も無く、冷えた身体があたたまるころには食事が運ばれていた。

真庭のとんかつ喜楽

 

これがその豚カツ。黄金に輝いている。いや、これは黄金そのものだ。

真庭のとんかつ喜楽

 

サクサクとした歯ごたえの後に来る、ほのかだが濃厚な豚の脂の甘み。

僕は、舌の上でその脂を一生懸命に転がそうとした。しかし、気づけば溶けて無くなってしまっていた。一瞬だ。それはまるで砂漠の蜃気楼か、甘酸っぱい恋の思い出のようだった。

 

旅の思い出を語ることすらなく、一行は豚カツに夢中になった。ただ、ただ必死にむさぼりついていた。それほどまでに絶品だったのだ。

 

 

僕らが帰るころ、すでに全てが終わったあとだった。跡形もなく消えていた。

真庭のとんかつ喜楽

 

高温になったラードと小麦がパチパチと爆ぜる音、まな板の上で小気味よく刻まれるキャベツのクリック音、その全てが懐かしいように思えた。

 

 

『喜楽』

 

凍てつくような河川沿いを、足が棒になるくらいに歩くと、そこには僕らを待ちかまえているオアシスがある。

 

この名前を僕らは決して忘れることはないだろう。